(公演名) METLV 「マルコムX」
(日 時) 2024年1月21日(日)12:50〜
(会 場) kino cinema 神戸国際 シアター1
(演 目) アンソニー・デイヴィス/マルコムX
(出 演) マルコム:ウィル・リバーマン(Br)
マルコム(少年時代):プライス・クリスチャン・トンプソン
ルイーズ/ベティ:リア・ホーキンズ(S)
エラ/伝道者:レイアン・プライス=デイヴィス(MS)
レジナルド:マイケル・スムエル(BsBr)
イライジャ/ストリート:ビクター・ライアン・ロバートソン(T)
指揮:カジム・アブドラ
演出:ロバート・オハラ
黒人解放運動家のマルコムXの生涯を描いた本作は、俳優として舞台でマルコムXを演じたクリストファー・デイヴィス(作曲家の弟)がストーリーを書き、詩人でもあるトゥラニ・デイヴィス(作曲家の従姉妹)が台本を書いて、ジャズピアニストであるアンソニー・デイヴィスが作曲をした作品なのだそうです。親戚一族の力を結集して作られたと言ってもいいと思いますが、それだけに実に見所の多い素敵な作品になっていました。
何が素敵と言って、その音楽がすごく刺激的なのです。METオーケストラって、こんな演奏もできるんだ、と思わせるくらい、すごくジャズの要素が入ってきていて、スゥイング感たっぷりなリズムとか、さすがアメリカ本場と唸らせるようなサウンドが。そこに加えてアメリカ作曲家の伝統というか、ミニマル音楽の要素も存分に入っていて、細かなリズムやメロディがひたすら繰り返されていくという独特の音楽感が。それらがまさに渾然一体となっているというふうで、前衛的なと思っているといつの間にかスゥイングしているという、何か不思議な感じ。さらに、そこへ奏者泣かせという、即興演奏をさせられるという箇所がいくつもあるようで、確かにトランペットやサックス、ピアノなど即興的なソロを演奏しているところがあって、そこは、舞台の上よりも演奏者の顔を見たくなるくらいな感じ。そういうのを織り込みながら進んでいく、その音楽の世界にぐいぐいと引きずり込まれていくような感覚でした。
それに、扱っているのが黒人解放運動家の生涯という、まるで大河ドラマを見るかのような壮大なもの。子役時代から始まって、暗殺されるまでの34年間の話をぎゅっと詰め込まれているので、とってもテンポ良く話が展開していき、決して飽きさせないようによくできています。私自身、マルコムXという人の名前は何か聞いたことはあるなというくらいの知識しかなかったのですが、それでもちゃんと話にはつけていけたので、そこはさすが物語自体がしっかりと構成されていたからなのでしょう。
演奏的には、先ほどのソロの即興楽器の方が一番お気に入りだったのですが、ホーキンズさんのソプラノが印象的でした。2役をこなされていたのですが、特に最初の母親役の時の正気を失うシーンは、すごく説得力のある演技をされていたのが印象に残っています。もう一方の妻の役の時はマルコムをしっかりと支える糟糠の妻というふうで、実に頼もしかったです。あとは、やはり2役を演じられていたロバートソンさん。最初のイカサマ師(?)は、オペラ歌手というよりはジャズシンガーというふうで、バックのダンサーたちと一緒にスウィングしているのが印象的でした。もちろん、主演のリバーマンさんも力強いバリトン声が素敵で、大衆を前にしての独演会とかはとっても説得力がありました。
気になったのは、この作品自体がイスラム教を真正面から取り扱っている作品であること。今回のライブビューイングが実際に上演されたのは昨年の11月18日とのことですが、その時点で、例のハマスとイスラエルとは交戦状態だったはず。イスラムに対する敵対心のようなものがアメリカ国内にあったのではないかとも思うのですが、そのような時期に、よくこの作品を上演したなと思うのですが。芸術はあくまでも芸術ですから、そのような政治情勢等に左右されるようなことはない、ということかもしれませんが、上演を決意したMETに拍手喝采をしたいです。
劇中、「Freedom」や「Justice」といった言葉繰り返されていて、まさに自由と正義のために戦うということの大事さや尊さというものを訴えかけてきているのが、グッときました。ちなみに、この2つの言葉は、そのままガンダムSEEDの世界観にも通じるものですね。こちらも来週から新作が公開なので、楽しみです。(^^;
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