2023年12月10日日曜日

【オペラ】METLV 「デットマン・ウォーキング」


(公演名) METLV 「デッドマン・ウォーキング)

(日 時) 2023年12月9日(土)10:50〜

(会 場) kino cinema 神戸国際 シアター1

(演 目) ジェイク・へギー/デッドマン・ウォーキング

(出 演) シスター・ヘレン・プレジャン:ジョイス・ディドナート(MS)

      ジョゼフ・デ・ロシェ:ライアン・マキニー(BsBr)

      シスター・ローズ:ラトニア・ムーア(S)

      ミセス・パトリック・デ・ロシェ:スーザン・グラハム(MS)

      オーウェン・ハート:ロッド・ギルフリー(Br)

      キティー・ハート:ウェンディー・ブリン・ハーマー(S)

      ハワード・バウチャー:チャウンシー・パッカー(T)

      ジェイド・バウチャー:クリスティー・スワン(MS)

      指揮:ヤニック・ネゼ=セガン

      演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ


 何年かぶりに聴きに行くMETライブビューイング、今シーズンは全部行きたいと思います。


 シーズン最初の作品はMET初演の「デッドマン・ウォーキング」。実際にシスター・ヘレンさんが体験したことをノンフィクションとして書き上げたものを、かつて映画にもなったようですが、23年前にジェイク・へギーさんが作曲してサンフランシスコで初演されて、それ以来、四半世紀にわたって世界中の70以上の会場で上演されているという作品なのだそうです。その初演の時にシスター・ヘレンを演じていたのが、今回も出演のスーザン・グラハムさん。今回はジョゼフの母親役としての登場です。そしてヒロインはジョイス・ディドナートさん。お2人とも私のお気に入りの歌手さんで、このお2人で今シーズンの幕を開けることができたのは、私としてはとってもラッキーでした。しばらく見なかった間にますます脂の乗り切った安定感があって、その歌の流れに身を委ねながら、その言葉の一つ一つの重みをいうものを噛み締めないわけにはいきません。それだけの説得力がひしひしと伝わってきます。


 扱っている題材は殺人事件を犯した死刑囚とそこに寄り添おうとする修道女のお話。死刑制度をめぐる是非なども問いかけけてきているのかもしれませんが、ここではそれには触れないでおきます。ただ、犯罪によって被害者を失った遺族の感情と、犯罪を犯してもなおも加害者の救いを求める家族の感情とは、お互いに歩み寄ることはできないのだろうなとは思うのです。正直に言って、ジョゼフはいわゆるクズ野郎だと思います。彼自身が自分の犯した罪と向き合わずに、遺族に対しても謝罪も何もなしでそれで赦されるということは絶対にあり得ないでしょう。彼の母親の言い分も、子に対する親の気持ちという点では、遺族側の両親だって同じ。だからこそ余計に何もなしで赦すことはできない、確かに、刑が執行されたとして彼らの亡くなった子は戻ってはこない、それでも何もないというのはあまりにも理不尽すぎる、と思うのです。本作での救いは、最後にジョゼフ自身がようやく自分の犯した罪に正面から向き合って、初めて遺族に対しての謝罪の気持ちを伝えたこと。それもないと、本当に救いようのない話になってしまうのですが、そこはちゃんと締めてくれたかなと。


 何か、音楽を楽しむというよりは扱っているテーマがテーマだけに、つい現実世界の出来事を重ねて色々と考えてしまいます。つい先日に結審した京アニ事件のことについてもそう。加害者はほとんど遺族側に対しての謝罪の気持ちというものを伝えていないのではないか、ぽつりぽつりとそういうことを言ったというよことは報道されているが、それがどこまで心からのものなのか、そいういうことも考慮した上で、判決が出ることを願ってやまないです。


 …つい、社会問題的な話になってしまいましたが、そういうことを考えずにはいられないほど、音楽も舞台の演出もリアリティーに富んだものでした。特に映像も駆使しての演出は、いやでも私たちに見たくないものでも見ろ、と迫ってくるみたいで、その現実の醜さと、讃美歌の崇高なまでの美しさとの対比が、感動より深いものにしているのだと思います。


 さ、来月の公演も楽しみです。

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