(公演名) 神戸文化ホール開館50周年記念事業
ヴェルディ:オペラ「ファルスタッフ」
(日 時) 2024年12月21日(土)14:00〜
(会 場) 神戸文化ホール・大ホール
(演 目) ヴェルディ/ファルスタッフ
(出 演) ファルスタッフ:黒田博(Br)
フォード:西尾岳史(Br)
フェントン:小堀勇介(T)
カイウス:谷口文敏(T)
ベルドルフォ:福西仁(T)
ピステーラ:松森治(Bs)
アリーチェ:老田裕子(S)
クイックリー夫人:福原寿美枝(MS)
ナンネッタ:内藤里美(S)
メグ:林真衣(MS)
ロビン:森本絢子
ガーター亭の主人:福嶋勲
子ども達:貞松・浜田バレエ団より
神戸市混声合唱団
神戸市室内管弦楽団
指揮:佐藤正浩
演出:岩田達宗
神戸文化ホールの開館50周年記念事業のハイライト、「ファルスタッフ」を観てきました。神戸文化ホールでのオペラ公演は、昔から定評がありましたが、今回もその伝統を受け継ぐように、素晴らしい公演でした。
幕が上がると、そこから合唱団員3名が飛び出してきて、何やら、わぁ〜っと声を上げながら手を叩いて、会場にも向かって拍手を煽ってきます。わけも分からず、思わず乗せられて私たちも手を叩いて、そして最後は彼女らの合図に合わせて、チャッチャッチャと会場全員揃って締め。そこから展開する日本語!でのミニコント。え、何が始まるんや?と思っていると、…要は文化ホールの50周年記念をアピールする寸劇?でした。でも、これでもう、つかみはOK!です。彼女らが下がるとすぐに場面はガーター亭に変わって、一気にオペラの世界へと引き摺り込まれるのでした。
さて、その本編の方ですが、演出がやはり素敵ですね。舞台が円形の回転舞台になっていて、ガーター亭の場面と、フォードの庭園または室内の場面とが表と裏になっていて、場面がくるっと回るとそれぞれの場面に変わるのですね。これ、場面転換を円滑にする意味でもよいと思うのですが、それだけでなく、ファルスタッフを中心とした男性中心の場と、アリーチェを中心とした女性中心の場とを対比させているようでもあり、その切り替えが音楽にもうまく合っているようにも感じます。2つの世界を行き来するような、この対比というものがこのオペラの面白みの一つだとも思うので、これは素敵だなと思いました。岩田さんの演出のオペラは過去にも何度も観たことがありますが、曲の世界観というものを見事によく捉えた演出をされるという印象があります。今回もまさにそうでした。
今回の出演者の中で一番の推しは、ナンネッタの内藤さんをあげたいです。若々しく伸びやかな声が役にもぴったりと合っていて、彼女の可愛らしさというものを実によく表していたと思います。そして、彼女と結ばれるフェントンを演じた小堀さんもまた、彼女に負けないくらいに豊かな声量で高音域も美しく響かせていました。この2人の二重唱は聴きごたえのあるものでした。
ベテラン勢の中では、アリーチェの老田さんが印象に残っています。彼女のことは、昔デビューされた頃から応援していて、ここ何年かずっと聴けていなかったのですが、久しぶりに彼女の歌声を聴くことができて嬉しかったというのもありますが、すっかり熟練の域に達していらっしゃるように感じました。張りのある声がよく響いて、また表情豊かな演技力とで、舞台を引っ張っていく強さみたいなものがあるように思います。もうすっかり、神戸の誇るソプラノ歌手の第一人者だと言ってよいと思います。改めて惚れ惚れとします。
タイトルロールの黒田さんは、その演技がさすがですね。ファルスタッフという、どこか小汚いような、でも何か憎みきれないようなワル、という役を絶妙に演じきっていたように思います。「メタボ野郎」なんて、女性陣からは言われていましたけれど、でっぷりとした腹をたたく仕草なども、何かお茶目な感じもしました。
その字幕も何か面白かったですね。「メタボ野郎」なんて言葉、当時にはないでしょうに、全部、今ふうにしているから、どこかおかしな感じがあります。カイウスの台詞は全て「〜ザマス」調で、女性陣からも「ザマス野郎」なんて言われたりしてましたし。イヤミかよ!と突っ込みを入れようかと思っていたら、演じていた谷口さんもそこは心得ていたのか、カーテンコールでしっかりと「シェー!」のポーズを決めてくれました。また、字幕の表示版、文字だけでなく、ちょっとした演出もあったりします。ファルスタッフが第2幕最後に川にドボン!と投げ込まれるところでは、水面にできる波のようなものが表示版にも現れたり、それぞれの幕や場の最後では、ひらひらっと文字が舞い散るようにして消えたり、そんな部分も演出効果として素敵でした。
あと、ファルスタッフの小姓ロビンも印象に残っています。体全体を使って、ファルスタッフの心象を表したり、また、ファルスタッフにあれこれと気づきを促したり、言葉や歌とはまた違った方法での表現の力というものが素敵でした。また、最後に出てきた子ども達の蜂の子、会場からも声が上がっていましたが、めっちゃ可愛い!です。手をブンブンとさせながらやってきては、ファルスタッフのお腹を刺す仕草をしたり、この上なく可愛いとしか言いようがないです。カーテンコールでも手をブンブンさせていて、愛嬌たっぷりでした。
実は「ファルスタッフ」を通して観たのは初めてだったのですが、本当に楽しくて、曲の中に引き込まれるような魅力がありますね。アリアとかもないのに、ただ台詞の言葉と音楽とが完全に一体となって、聴く者を虜にするような、巨匠ヴェルディが成し得た、絶妙な魔力なのかもしれません。そうしたものを、今回の公演も、余すところなく十二分に再現していたと思います。第3幕最後の全員での重唱は、重厚なサウンドでありながら、歌っていることはどこか馬鹿らしいような感じもして、結局のところ、それが人生というものなのかも、と思い知らされるような気もします。ほんと、「バカばっか」(機動戦艦ナデシコのルリじゃないですが…)ですね。
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