2024年12月15日日曜日

【オペラ】METLV「グラウンデッド」

(公演名) METLV 「グラウンデッド」

(日 時) 2024年12月14日(土)10:35〜

(会 場) kino cinema 神戸国際 シアター2

(演 目) ジャニーン・テソーリ/グラウンデッド 翼を折られたパイロット

(出 演) ジェス:エミリー・ダンジェロ(MS)

      エリック:ベン・ブリス(T)

      センサー:カイル・ミラー(T)

      もう一人のジェス:エリー・ディーン(S)

      司令官:グリア・グリムスリー(BsBr)

      指揮:ヤニック・ネゼ=セガン

      演出:マイケル・メイヤー


 今シーズンのMETライブビューイングの2作目は現代ものです。翼を折られたパイロットという副題があるように、パイロット、それも戦闘機のパイロット、しかも女性!というまさに超エリートのお話し…と思いきや、そんな彼女の戦争体験、それも現代の最先端の戦争の体験が綴られていくというもの。なかなか考えさせられる作品でした。


 というのも、主人公は空軍のエース・パイロットなわけですが、彼女が妊娠していることが分かると、軍から一旦身を退いて出産・育児して、その後再び軍に戻って、新たにドローンのパイロットとして活躍するも、次第に心を病んでいき、最後は…というストーリーなのです。性差に関する問題も含まれているのだとは思うのですが、それだけではなく、これから起こりうる新たな戦争の形というもの、それがもたらすであろう兵士への影響というものを示唆しているように思うのです。すなわち、実戦というものが、直接的に敵とぶつかりあうのではなく、ドローンの技術によって、その場にいなくても、遠隔操作により自身は安全な場所にいながらにして敵と交戦して、画面の向こう側の敵を倒し、殺すことができる… そのようなバーチャル的な形になることで、戦争というものが現実の悲惨なものから、どこか虚偽的なリアルでないものとなり、次第に現実と非現実との区別がつかなくなってしまい、精神に破綻が生じる… それはこの上ない悲劇だと思うのです。だって、遠隔操作で画面の向こうの劇を殺してきておきながら、そのまま自分は家に帰ってきて夫や娘と触れ合うなんてこと、普通にできるのだろうか、日常と非日常とが隣り合っていて、しかもその間を毎日行き来するということ、耐えられるのだろうか… そのようなことを考えてしまいます。ひょっとしたら、これからの戦争というものは、攻める側は全て遠隔操作になるのでは、いや、応戦する方も避難さえしてしまえば同様に遠隔でできるのでは、そうなるともう戦争がゲームのようなものになってしまうのでは、そこに兵士としての誇りのようなものはあるのか、そう考えると、すごく恐ろしい気がしてなりません。そしてまた、結局は、直接的な標的ではないはずの一般人多数がその戦いに巻き込まれて命を落とすことになるのですから、何ともやり切れない思いしかないです…


 と、あれこれと考えさせられる作品なのですが、そう考えてしまうのも、主演のダンジェロさんの歌唱と演技がまさに迫真のものだからです。彼女の力強い歌唱は、最初はまさにエース・パイロットとしての自信と誇りを表しているようですが、でも、話が進んでいき次第に心を病んでいくと、悲痛な叫びのようにしか聞けなくなってしまいます。まさにドラマティックな歌唱でした。


 対して、エリックのブリスさんの声はすごく甘く軽やかな響きですね。ジェスを愛する夫に相応しいと思います。幕間のインタビューで作曲家と演出者が話していましたが、ジェスは「空」、エリックは「地」であると。その対比が、ダンジェロさんの力強さとブリスさんの軽やかさという声質の違いからもくっきりと表現できていたかと思います。


 LEDのタイルを並べたステージという演出もまた素敵でした。舞台の上段がLEDのステージになっており、「空」の場はこちらで演じられて、その下の部分が通常の舞台で、「地」の場はこちらというふうに分けられており、それだけではっきりとジェスとエリックの住む場所が違うということが示されています。そして、そのLEDの光が、時には美しい空の青色を表したり、時には投下された爆弾による戦禍を表したり、時にはドローン管制室のメカニカルな様子を表したりと、自在に舞台の表情を変えていきます。最後は、哀しくもまばゆいばかりの閃光。それだけでそこにどれだけの悲劇が起きたのかが容易に想像できます。この演出は素敵だなと思いました。


 世界各地での戦争が絶えない現代だからこそ、このような演目は上演される価値があると思います。確かに、歴史的にも価値のある公演でした。


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