2024年10月13日日曜日

【オペラ】全国共同制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」

(公演名) 全国共同制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」

(日 時) 2024年10月12日(土)14:00〜

(会 場) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール

(演 目) プッチーニ/ラ・ボエーム

(出 演) ミミ:中川郁文

      ロドルフォ:工藤和真

      ムゼッタ:イローナ・レヴォルスカヤ

      マルチェッロ:池内響

      コッリーネ:スタニスラフ・ヴォロビョフ

      ショナール:ヴィタリ・ユシュマノフ

      ベノア/カフェマスター:晴雅彦

      アルチンドロ:仲田尋一

      パルピニョール:谷口耕平

      物売り:鹿野浩史

      児童合唱ソリスト:蔵方颯人

      ダンサー:梶田留以、水島晃太郎、南帆乃佳、小川莉伯

      ザ・オペラ・クワイア

      きょうと+ひょうごプロデュースオペラ合唱団

      三田少年少女合唱団

      バンダ・ペル・ラ・ボエーム

      兵庫芸術文化センター管弦楽団

      演出:森山開次

      指揮:井上道義


 今年で引退されることを表明していた井上道義さん、ずっと昔からテレビで見ていた方だけに、引退されるのは寂しい気もします。井上さん指揮のオペラなんて今まで見たことがなかったのですが、引退される年になって、まさに井上さん最後のオペラ公演が、私にとっては初の井上さん指揮オペラ体験となりました。


 実際、彼の最後のオペラということもあって、それまでの井上さんのやってきたことが全て集大成されているような、非常に中身の濃い出来だったのではないかと思います。どこか淡々としながら、それでも感情が昂ったり、落ち込んだりするようなところでは音楽も合わせて、ぐっと上昇したり、すっと下降したりするようで、私たちの日常生活の中での感情の起伏というものをそのまま音楽に表したら、こういう感じ

になるのかなと思わせるようなものです。もちろん、井上さんならではお茶目な、コミカルな箇所も織り込んで、そこはもう、熟練のなせる技というものでしょう。


 何よりも、歌い手陣がそうした彼の音楽を見事に表現し切っています。一番感動したのは、ロドルフォの工藤さん。その伸びやかな美声は実に美しく、ハイCも難なくこなしていて、おぉ!と思います。こんなんで口説かれたらもうたまらんでしょう。そこから最後の悲痛な叫びまで、実に表情豊かで、感性豊かな詩人という感じを見事に演じていて、惚れ惚れとします。また、ミミの中川さんもそれに張り合うように(?)、純粋で可憐な小娘というふうで、ロドルフォとの二重唱はこの上なく高揚感あふれるものでした。


 そのような歌い手に加えて、オーケストラが井上さんの指揮に実によく反応していたという印象がします。この芸文センターの座付きのオーケストラで、オペラ公演も普段からこなしているだけのことはあるのでしょうし、また、これまでにも井上さん指揮での演奏も何度もしているからなのでしょう、実に息がぴったりとあっていて、彼のタクトに見事に反応しているのが、見て取れます。先ほども少し書きましたが、どこか淡々としながら、一気にぐっと高揚したり、すっと沈静化したりという感情の上下を、一糸乱れぬ弦や管の響きが非常に巧みに表現しているのです。この夏の「蝶々夫人」でも感じたのと同じことを今回も感じました。


 でも、一番特筆すべきは今回の演出が森山さんで、何と、ダンサーを舞台上に加えているといことでしょう。歌手が歌ったりしている同じ舞台上で、4人のダンサーがそれに合わせてダンスをしている(森山さんの言葉を借りれば「身体表現」をしている)のです。これはダンサーでもある森山さんならではの演出でしょう。そして、それが全然違和感なく、場面に応じて、登場人物たちの心情や、その場面の雰囲気や空気感、何か具体的なモノなどを表現しているのです。これはすごく斬新な感じもしましたし、新鮮に思われて、でもすごく良いなと思います。バレエの入るオペラなんかはよく見ますが、それとは違って、バレエのように音楽に合わせて、というのではなく、まさに登場人物の心の動きに合わせて、踊っているようなのです。オペラとダンスが見事にマッチした舞台でした。


 他にも、パルピニョールの谷口さんが井上さんと何やらコミカルな無言劇(?)をやっているのが可笑しかったり、地元の三田少年少女合唱団の皆さんが可愛らしかったり、特別編成のバンダ隊のドラムメジャーが格好良かったり、いろいろとありましたが、まさに井上さんの最後を飾るオペラ公演だったと思います。最後は何度もカーテンコールに出てこられていましたが、もうこれで終わり!というときには、くるっとターンを決めながら(?)舞台袖に引っ込んでいかれるという、最後まで井上さんらしさに溢れた公演でした。


 本当の最後の公演は、来月くらいに演奏会が控えていたかと思いますが、これまでの長い間のご活躍、本当にお疲れさまでした、そして、私たちを存分に楽しませていただいて、ありがとうございました、と言いたいです…


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